石川利光「春の草」

 妻・睦子とは別居しており、家に帰っても寝るしかない。仕事の成績をあげるとか、面白い遊びを見つけるとか、そういったことに興味も欲望もおこらない。毎日を片付けていく、そんな生活をすでに一年以上も送っている。睦子との喰い違いは、京口が戦争から帰ってきて以来であった。睦子は養父とともに仕事をしていた。その姿は、京口の心に黒い疑惑を引き起こした。


 芥川賞受賞作。長い留守から帰ってきたら、家庭の事情は大きく変化していました。居場所がなくなった主人公は自分の感情を消してしまいます。日々に流されるままになることによって、傷を広げない方向で事実&現在に対処しようとしています。
 今と昔を自在にいったりきたりする語り口は、まるで他人のインターネット検索を傍目から見ているときのような、小さな混雑を頭に引き起こします。その傍目を意識した検索方法には「あ、狙ってるな」という、計算しつくされた技を感じます。