2006-02-01から1ヶ月間の記事一覧

大江健三郎「頭のいい「雨の木」」

暗闇の壁をもち驟雨を降らせる「雨の木」から戻ってくると、少年青年を愛するビートニクの詩人と車椅子の天才建築家の論争が、僕を待ち受けていた。それは彼らの足元あるいは背後にいる聴衆を意識したゲームあるいはパフォーマンスであったが、下降堕落の方向…

円地文子「樹のあわれ」

武治が定年を過ぎても高級呉服部の現役主任でいられるのは、彼の技量を買われている為である。しかし、このごろ老眼に加えて勘が鈍くなってきており、ボロが出る前にそろそろ退職した方が利口だろうと思ってはいる・・・。今日は女店員・熊田葉子に注意をし…

中野重治「空想家とシナリオ」

車善六は空想家だった。たとえば彼は自分の名前の由来についても空想に浸っているのだった。また彼は役所での仕事の合間にも、創造的苦痛を伴うような自分にあった仕事、たとえばシナリオを書くことなどを考えていたのである。彼の空想はどんどん広がってい…

丸谷才一「墨いろの月」

翻訳家の朝倉がバーでマスターから聞いた話によると、どうやら30年ほど前に自分が喧嘩を教えた子供が現在ヤクザの親分になっており、「あのとき教わっていなかったら、今の自分はない」と言ったらしい。喧嘩に負け続ける子供に指南したことは自分の中では美談…

武田泰淳「もの喰う女」

私は最近では、二人の女性とつきあっていました。男友達も多い弓子との付き合いは、愛されているようであり、馬鹿にされているようでもあり、その反動が私を房子に近づけました。房子は喫茶店で働く、貧乏な女でした。彼女のそばに居ると、弓子のおかげでい…

石上玄一郎「精神病学教室」

まったく自信がもてない医師・高津に、教授は手術を薦めてきた。「患者の危険も、時によってはやむを得ないものだ」。一方では、親友に死期が迫っている者がおり、高津は彼には延命をこころみる・・・。ここに現代医学から絶望視された二人の患者がある。彼ら…