2007-01-01から1年間の記事一覧

星新一「人民は弱し 官吏は強し」

星一はアメリカで学んだ手法を事業に応用し、それはことどとく成功した。さらに新しいアイデアを探し続け、仕事は自分、自分は仕事と、勢いを増していた。しかし、成功者が通る道の影には、内にこもるわだかまりをもつ者があらわれる。恥として内向させ、復…

石川淳「六道遊行」

姫のみかどの寵愛をめぐって、はかりごと全盛の平安の世。色香なやましく散る女は、化粧のものか影もなく浮き、葛城山とは逆に行く。小楯がそれとさとって太刀を手に寄ると、追っていくさきに十抱えもあろう杉の大木あり。その穴に踏みこむと、因縁は砂がふ…

石川淳「狂風記」

荒れた裾野はたましいの領地。怨霊の国。えらばれた住民マゴは、ゴミの中からシャベルをつかって骨をさがすと、オシハノミコの因縁でヒメの肌に押しつぶされる。千何百年の歴史をその場に巻きかえし、人間の怨霊が食らいついて離れない。因縁の目方は歴史の…

木々高太郎「人生の阿呆」

両親よりも祖母に育てられた良吉は、盲目の愛をうけて育った。或る時は祖母が憎らしくなったこともあったが、それは良吉にとっては、自分を憎むことだった。良吉は父の良三から、小間使いの娘との間に覚えのない嫌疑をかけられて、欧羅巴へ身を隠すことにな…

久生十蘭「母子像」

和泉太郎、中学一年B組。父は死亡、母は将校慰安所を切りまわしていたが、戦災により認定死亡。「釈放しようと思うのですが、実は、かんばしくない報告が相当・・・先生、あの子は何か過去に辛いことがあったのではないでしょうか」「あれは、母親の手で首…

久生十蘭「鈴木主水」

殿様が御代替の折、押原右内があらぬ権勢をふるうようになった。奥には欠込女が入り込み、連日騒ぎをしているときく。譜代の家来は、火中の栗を拾おうとせず、御暇乞いの声を出すようになった。ある日、家来の鈴木主水は「お家には悪人が不足しているが、そ…

久生十蘭「湖畔」

貴様も諒解することと思うが、自由に対する執着から、俺は情人とともに失踪して新生活をはじめることにした。俺は華族の論客として名声を高めてきたが、実際は避け難い猜疑心と卑屈な根性を持つ、低劣臆病な人間なのだ。この夏、俺は貴様の母を手にかけたが…

石川淳「至福千年」

開国と攘夷に揺れ動く幕末の江戸に、人の心をかき乱すものどもが走る。聖教は己の心にありとして、人形の少年を捧げ、白狐を操る老師加茂内規。下下あつめて天地をかえすのは、千年の地上楽園のためにこそ。我が教につくか死か!そこに気合するどく、まて、…

野坂昭如「アメリカひじき」

ハワイで妻が知り合ったヒギンズ夫妻、このたび日本へ遊びにくるという。俺達、恨む筋合いはないけれど、アメリカの過剰物資を投げられて、それを拾う情けなさ。ギブミーシガレット、チョコレートサンキュウと兵士にねだった経験なければ、恥かしい気持ちは…