2007-04-01から1ヶ月間の記事一覧

木々高太郎「人生の阿呆」

両親よりも祖母に育てられた良吉は、盲目の愛をうけて育った。或る時は祖母が憎らしくなったこともあったが、それは良吉にとっては、自分を憎むことだった。良吉は父の良三から、小間使いの娘との間に覚えのない嫌疑をかけられて、欧羅巴へ身を隠すことにな…

久生十蘭「母子像」

和泉太郎、中学一年B組。父は死亡、母は将校慰安所を切りまわしていたが、戦災により認定死亡。「釈放しようと思うのですが、実は、かんばしくない報告が相当・・・先生、あの子は何か過去に辛いことがあったのではないでしょうか」「あれは、母親の手で首…

久生十蘭「鈴木主水」

殿様が御代替の折、押原右内があらぬ権勢をふるうようになった。奥には欠込女が入り込み、連日騒ぎをしているときく。譜代の家来は、火中の栗を拾おうとせず、御暇乞いの声を出すようになった。ある日、家来の鈴木主水は「お家には悪人が不足しているが、そ…

久生十蘭「湖畔」

貴様も諒解することと思うが、自由に対する執着から、俺は情人とともに失踪して新生活をはじめることにした。俺は華族の論客として名声を高めてきたが、実際は避け難い猜疑心と卑屈な根性を持つ、低劣臆病な人間なのだ。この夏、俺は貴様の母を手にかけたが…