2005-10-01から1ヶ月間の記事一覧

長谷川四郎「勲章」

この大隊は旧軍隊の秩序をそのまま保持しており、佐藤少佐はシベリヤ天皇として特権的な生活を送っていた。しかし、本人はさほど意識していなかったようだが、彼も所詮捕虜であった。或る日着任してきたロシヤ人将校は、少佐と兵隊たちに権力がいずこにある…

坂口安吾「イノチガケ」

信長に保護され、秀吉に蹴落とされ、家康に止めを刺され、切支丹は完全に国禁された。海外からは情熱を抱いて浸入する宣教師が絶えなかったが、遊ぶ子供の情熱に似た幕府の単調さは、彼らの迫害を行い続けた。火あぶり、氷責、斬首、穴つるし、島原の乱、鎖…

梶井基次郎「闇の絵巻」

闇!そのなかでわれわれは何を見ることもできない。思考することさえできない。何が在るかわからないところへ、どうして踏み込んでゆくことができよう――。闇を愛することを覚えた私は、旅館から旅館への10キロほどの道のりを愛した。力強く構成される街道の…

深沢七郎「因果物語―巷説・武田信玄」

武田信玄は三百五十年も前に死んだ人なのである。けれども甲斐の国の百姓たちにとっては、今でも立派な人といえば信玄公よりほかにいないし、偉い人というのも信玄公よりほかにはないのである。水騒動や税法の一件のときも、村人にとっての「シンゲンコー」…