2004-12-01から1ヶ月間の記事一覧

坂口安吾「信長」

天下に名だたる大タワケ・織田信長。彼の兵法を配下の武将たちは全く理解できないでいた。彼らは考えた。今川義元が攻めてくるまでの時間の問題である。だが、美濃のマムシ殿だけは違っていた。信長が大バカと言ったのはどこのどいつだ?・・・放埓の果てに…

開高健「巨人と玩具」

キャラメルメーカーのサムソンは、キャラメルにつける「おまけ」の知恵を絞っていた。キャラメル業界の不透明な先行きの中、サラリーマンたちを襲う徒労、そして無力感・・・。だが、重役たちの声はたったひとつであった。「もっと売れ!もっと売れ!」――巨…

椎名麟三「自由の彼方で」

情けなくていやらしい清作は、レストランで働きながら、自分が何をしたいのか、さっぱりわからないと考えていた。ああ、どうしてぼくには幸せがこないんだろう!と裏の空地で涙していたが、そもそも幸福とは何なのかということについてさえ、具体的なことは…

井上靖「ある偽作家の生涯」

原芳泉は、不幸な生涯を送った人物であった。彼は天才・大貫桂岳と比する才能を持ちながら生かす道を知らず、偽作家となり果て、孤独のうちに生涯を閉じた人であった。今、私は桂岳の伝記の記述を、しばしば投げ出してしまうのだ。それは桂岳の輝かしい経歴…

尾崎一雄「まぼろしの記」

私よりも優れた人間が、私よりも先に死んでいく。懸命に生きようとする人間を押しつぶす、ある理不尽な力を感じざるをえない。60を過ぎた私は、縁側でこれまでのことを思い出していた。けれども、抵抗のしようがないじゃないか。どうしようもないではないか…

太宰治「魚服記」

馬禿山の滝つぼ近くの茶店で、店番のスワはすべて父親の指示どおりにしていた。しかし、このごろ、スワはすこし思案ぶかくなってきたようである。ながめているだけでは足らなくなってきたのだ。父親は、売れても売れなくても、なんでもなさそうな顔をしてい…

椎名麟三「重き流れの中に」

僕には明日の希望がない。昨日はすでに滅んでいる。明日は昨日の繰り返しだし、今日は廃墟でしかない。けれども明日のことを考えるのは気持がいい!特に天気のことを考えるのは最高だ。生活は徹頭徹尾無意味である。けれどもこの無意味さは笑うことによって…