井上靖「ある偽作家の生涯」
原芳泉は、不幸な生涯を送った人物であった。彼は天才・大貫桂岳と比する才能を持ちながら生かす道を知らず、偽作家となり果て、孤独のうちに生涯を閉じた人であった。今、私は桂岳の伝記の記述を、しばしば投げ出してしまうのだ。それは桂岳の輝かしい経歴よりも、原芳泉の数奇な生涯の方が私の思いを奪うためであった。
- 作者: 井上靖
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1956/05
- メディア: 文庫
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本作において、天才よりも落伍者にドラマ性を感じるのは、作者が「人間の弱さ」を知っているからなのでしょう。伝聞を基にした形式であるため推測が大半を占めますが、ある箇所において断定的な表現がなされており、そこに強烈なインパクトを感じました。