椎名麟三「重き流れの中に」

 僕には明日の希望がない。昨日はすでに滅んでいる。明日は昨日の繰り返しだし、今日は廃墟でしかない。けれども明日のことを考えるのは気持がいい!特に天気のことを考えるのは最高だ。生活は徹頭徹尾無意味である。けれどもこの無意味さは笑うことによって超えられるのだ。僕は死んでいるが、長屋では笑って生きている。

重き流れの中に (新潮文庫)

重き流れの中に (新潮文庫)

 日常を変わり映えのしないものとしてとらえ、その運命にどうやって対処するかという話が、主人公のニヒルかつナンセンスな視線をもって語られます。
 運命に抵抗するために怒鳴り散らす男、絶望のあまり涙を流す青年、流れるままに生きる老女、華やかだった時代の化粧をし続ける女、そして、なぜか全てに微笑で応じる主人公・・・。
 けれども、そもそも「日常は決して変わらない」と決まっているのでしょうか?存在を賭けた言葉でも、ハエを動かすことすら出来ないのでしょうか?

 あれでもない、これでもない、全然ちがった別のものだけが僕のしなければならない本当のものだという気がするんですよ。