太宰治「畜犬談」
諸君、犬は猛獣である。彼らは馬をたおし、獅子をも征服するというではないか。いつなんどき怒り狂い、その本性を発揮するかわからない。世の多くの飼い主は、さながら家族の一員のようにこれを扱っているが、不意にわんと言って喰いついたら、どうする気だろう。三、七、二十一日病院へ通い、注射を受けて治療しなければならない。戦慄、である。
- 作者: 太宰治,木田元
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2003/05
- メディア: 単行本
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主人公は「畜犬」との間に太い境界線をひいておき、犬の恐ろしさや嫌らしさをこれでもかとオーバーに表現します。その後の展開もいいのですが、そのときに「なんだか自分に似ているようだ」と一人ボソリとつぶやいちゃいます。そこに気づいたらもう最後。あとはなるようにしか、なりません。
思えば、思うほど、犬は不潔だ。犬はいやだ。なんだか自分に似ているところさえあるような気がして、いよいよ、いやだ。たまらないのである。