久生十蘭「鈴木主水」

 殿様が御代替の折、押原右内があらぬ権勢をふるうようになった。奥には欠込女が入り込み、連日騒ぎをしているときく。譜代の家来は、火中の栗を拾おうとせず、御暇乞いの声を出すようになった。ある日、家来の鈴木主水は「お家には悪人が不足しているが、それが不幸の源だと思って居ります」。父親は察していた。御前で思いきった乱暴をするようだな。いよいよ今日か、そう感じた。

湖畔・ハムレット 久生十蘭作品集 (講談社文芸文庫)

湖畔・ハムレット 久生十蘭作品集 (講談社文芸文庫)

 美男の剣豪が忠義のために、自分を悪人にし、武士としての生涯を犠牲とすることで、没落寸前のお家を救おうとします。そのときに仕掛けた決死の言動が、意外な展開を生んでいきます。黙って命を賭ける侍精神が、随所にうかがわれる作品です。このあたりは、黒田騒動といわれる大石内蔵助絶賛の出来事をもとにしているそうです(作中に説明あり)。直木賞受賞作。