野坂昭如

野坂昭如「アメリカひじき」

ハワイで妻が知り合ったヒギンズ夫妻、このたび日本へ遊びにくるという。俺達、恨む筋合いはないけれど、アメリカの過剰物資を投げられて、それを拾う情けなさ。ギブミーシガレット、チョコレートサンキュウと兵士にねだった経験なければ、恥かしい気持ちは…

野坂昭如「マッチ売りの少女」

木枯しに身ふるわせて、マッチ一つすっては股のぬくもりをむさぼっている。タオルの寝巻きに泥と脂にまみれた半天一枚、半分坊主のざんばら髪に、頬はげっそり、姿かたちは五十過ぎ、けれども実はまだ二十四歳。「お父ちゃんお父ちゃん」とちいさくさけんで…

野坂昭如「火垂るの墓」

母は息をひきとり周りの人には辛くされ、清太と節子は横穴に住む。すぐに食い物なくなり節子はやせ衰え、人形を抱く力もはいらない。――お父ちゃん、今ごろどこで戦争してはんねんやろ、なあ、お母ちゃん。せや、節子覚えてるやろか、と口に出しかけて、いや…