野坂昭如「マッチ売りの少女」
木枯しに身ふるわせて、マッチ一つすっては股のぬくもりをむさぼっている。タオルの寝巻きに泥と脂にまみれた半天一枚、半分坊主のざんばら髪に、頬はげっそり、姿かたちは五十過ぎ、けれども実はまだ二十四歳。「お父ちゃんお父ちゃん」とちいさくさけんでは男の胸にすがりつく、お安の転落は中学三年の七月、新しくきた父に、後から抱きすくめられたときからはじまる。
- 作者: 野坂昭如,米倉斉加年
- 出版社/メーカー: 大和書房
- 発売日: 1977/06
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ドヤ街を抜けて、三角公園の、まばらに生える木立ちの根方に、お安はしょんぼりと立ち、だがその姿、まるで何年も住みついたお化けのように、形がきまった。