星新一「人民は弱し 官吏は強し」
星一はアメリカで学んだ手法を事業に応用し、それはことどとく成功した。さらに新しいアイデアを探し続け、仕事は自分、自分は仕事と、勢いを増していた。しかし、成功者が通る道の影には、内にこもるわだかまりをもつ者があらわれる。恥として内向させ、復讐心を燃えたたせる勢力がある。つねに楽天的かつ能弁な星は、同業者のみならず役人に対しても対等な口利きをしたが、役人はそれがおもしろくない。選挙で多数をにぎった憲政会は、徹底的に星と彼の会社をつぶしにかかるのだった。
- 作者: 星新一
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1978/07/27
- メディア: 文庫
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息子が書いた父の話であり、推察が多く、一方的な点があることを差し引く必要があるかもしれません。しかし、これは実名で書かれた告発の書であり、その主張するところは強く理解出来ます。なぜなら現代の世界、しかも、真実が勝利するはずの科学の世界にも同様のねたみが存在し、成果を無視して人格攻撃に移行することを私はよく知っています。
ところで、評論家・鶴見氏による解説文は、政治家と経済界の密着を是とするものでした。星氏は「兄貴分をまちがってえらんだ」のでも「くいちがいがあった」のでもないことは小説を読めば明らかで、これは「寓話」ではないと思われます。
官庁の地位というものは、民間より一段と上にあり、強固で、ゆらぐことは絶対にないはずなのだ。
星が頭をしぼってアイデアをうみだし、乗り越えるのに成功した壁。その壁を業者と役人の連合軍は、金の力によって爆破した。最も単純でわかりやすい方法ともいえるが、最もあさましく情けない方法ともいえた。