庄野潤三「静物」

 「釣堀に行こうよ」とさいしょに言ったのは男の子だった。父親ははじめ乗り気でなかったが、小学一年生の男の子と、小学五年生の女の子が熱心に誘うので、重い腰をあげて出かけることにした。細君と、三つになったばかりの下の男の子は留守番だ。徒歩で十分くらいのところにある釣堀に着くと、男の子は待ちきれずに駆け出した。「早く!早く!」

プールサイド小景・静物 (新潮文庫)

プールサイド小景・静物 (新潮文庫)

 父親の目を中心とし、3人の子供と母親とで過ごす日々の出来事が、18章立てで描かれます。ドラマチックな盛り上がりはなく、日常のほんの一コマが着実なペースで書かれています。とても静かな印象をもった作品なので、猥雑な社会から離れたいときに読むと、ささくれだった心の波を静めてくれることと思います。
 また、感じるのは彼ら親子がよく「会話」するということです。現代日本ではありえないほどに・・・。