石原慎太郎「殺人教室」

 南条健一、東郷康夫、北見道也、西田徳治。彼らは見事なまでに模範的な学生だった。強いて気になる点があるとすれば、時折口にする「退屈だなあ」という言葉くらいのものだった。彼らは、ある時それぞれの技術を持ち寄って鉄砲を作り上げ、「メフィスト」という名を与えた。ターゲットにしたものは「人間」である。彼らが幸せになる代わりに、社会は無差別連続殺人に恐怖することとなった。

 退屈しのぎに行われる通り魔の凶弾!あの有名人やあの政治家が倒れるという、場面展開の速さと意外性は、登場人物の明快さも相まってマンガ的な面白さ(「五島由紀夫氏」や「石原慎太郎氏」も登場(笑))。
 自分たちの不満を解消するためにはじめた行為が、後半になると意義を求めてどんどん拡大していくのですが、それは「やりたいことがやれれば満足」→「どうせやるなら利益を得たい」へと変化していく、人間の希求の俗な広がりを表しているようです。

 彼らの心を結んだものは秘密などでは決してない。世にも秀逸な行為を所有出来たと言う他に対する絶対の優越感であった。
 それにあれは全くもって面白くて面白くてたまらぬものだ。それをそうそう他人に分ち与えてやれるものではない。彼らは正しく選ばれたものである。

殺人教室 (1959年)

殺人教室 (1959年)