2004-05-21から1日間の記事一覧

福永武彦「飛ぶ男」

彼が乗ったエレヴェーターは彼の意識を飛ぶ鳥のように8階に残したまま、もう1つの彼の意識を撃たれた鳥のように無抵抗に落下させる。僕ハ魂ヲ置イテキタ・・・。彼は病院から戸外に出て行く。これが本物の明るさだ。彼の視線は植物や雑誌を素通りし、屋根の…

梅崎春生「麺麭の話」

異常インフレが続き食べ物が不足した時代、真面目な役人である彼は、妻と子と犬と自分を飢えさせるために働いているようなものであった。汁やカスしかない食卓のたびに、血色のいい多田の声が思い返されてくる・・・。1週間前、多田が打診してきたのは、役所…