福永武彦

福永武彦「退屈な少年」

十四歳の健二は退屈しきっていた。もちろん面白そうな動物や植物はある。けれどもいったん退屈であると宣言した以上は、何がなんでも退屈でなければならなかったのだ。僕はもう子供じゃない――。退屈で退屈でしかたがない健二少年、看護婦の三沢さん、少年の…

福永武彦「風花」

彼は療養所の孤独のなかに生きており、これから行く道も定かではない。詩をつくろうとした彼の思考は、何か別の力によって過去へと、周囲から愛されていた過去へと戻ろうとする。そのとき、彼の顔に何やら冷たいものが降りかかった。(ああ、風花か――)。何…

福永武彦「廃市」

十年も昔のことである。その時僕は卒業論文を書くために、一夏をその町のその旧家で過した。ひっそりとして廃墟のような寂しさのある町。古びた、しかし、すばらしく美しい町。だが、僕は知らなかった。この町の穏やかで静かな生活に隠された意味が何である…

福永武彦「未来都市」

死に憑かれて放浪を繰り返していたその時、僕はヨーロッパのどこかの都会で「BAR SUICIDE」という酒場を見つけた。「死にたければ、特別のカクテルを出しますよ」。バアテンの言葉に誘われるまま、僕はグラスを口へ運ぶ。隣にいた男が、バアテンが叫び、そし…

福永武彦「飛ぶ男」

彼が乗ったエレヴェーターは彼の意識を飛ぶ鳥のように8階に残したまま、もう1つの彼の意識を撃たれた鳥のように無抵抗に落下させる。僕ハ魂ヲ置イテキタ・・・。彼は病院から戸外に出て行く。これが本物の明るさだ。彼の視線は植物や雑誌を素通りし、屋根の…