福永武彦「廃市」
十年も昔のことである。その時僕は卒業論文を書くために、一夏をその町のその旧家で過した。ひっそりとして廃墟のような寂しさのある町。古びた、しかし、すばらしく美しい町。だが、僕は知らなかった。この町の穏やかで静かな生活に隠された意味が何であるかを。そしてそれが真の悲劇に発展する可能性を持っていたことを――。
- 作者: 福永武彦
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1971/06
- メディア: 文庫
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彼らが水面で舞う年に一度のお祭りの日、裏では悲劇のプロローグが進行していました。普段物静かな彼らが声高になるとき、それは辺りの錆びれた空気とはそぐわないのですが、だからこそ必死さと絶望感が切ない悲鳴となって木霊し、「僕」と同様にそれは強烈に記憶に残ります。雰囲気といい調子といい、夏目漱石「こころ」やビスコンティ監督の映画「ベニスに死す」と似た感じを抱きました。