石川淳「夜は夜もすがら」
千重子はこれが何語かということすら知らない。この本を眺めているあいだが、一日のうちでもっとも清潔な時間である。字を見ても、字のわけがわからない。おもえば普段の生活の中で、何を見、なにを見たとおもったことだろう。そもそも見るとは何か。悟る、悟らないという言葉があるが、えらそうに、なにいってやがんだい。この世界には物質のほかはなにも無いし、物質は絶えずうごくものじゃないか。
- 作者: 石川淳
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1980/01
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人間も絶えずうごいて、道の曲り角なんぞでひょっくり物質にぶつかったらば百年目、これと取っ組みあいをするよりほかに世界と附合いようは無いじゃないか。
- 安部公房「赤い繭」