2004-09-07から1日間の記事一覧

石川淳「夜は夜もすがら」

千重子はこれが何語かということすら知らない。この本を眺めているあいだが、一日のうちでもっとも清潔な時間である。字を見ても、字のわけがわからない。おもえば普段の生活の中で、何を見、なにを見たとおもったことだろう。そもそも見るとは何か。悟る、…

福永武彦「廃市」

十年も昔のことである。その時僕は卒業論文を書くために、一夏をその町のその旧家で過した。ひっそりとして廃墟のような寂しさのある町。古びた、しかし、すばらしく美しい町。だが、僕は知らなかった。この町の穏やかで静かな生活に隠された意味が何である…