福永武彦「未来都市」

 死に憑かれて放浪を繰り返していたその時、僕はヨーロッパのどこかの都会で「BAR SUICIDE」という酒場を見つけた。「死にたければ、特別のカクテルを出しますよ」。バアテンの言葉に誘われるまま、僕はグラスを口へ運ぶ。隣にいた男が、バアテンが叫び、そして、僕は・・・汽車の中にいた。行き先は、「未来都市」。そこは全てが未来を向いている都市。

廃市/飛ぶ男 (新潮文庫 草 115-3)

廃市/飛ぶ男 (新潮文庫 草 115-3)

 導入部のクールさは屈指だと思われます。とにかく格好いい。
 長篇にしてもおかしくない題材がギュッと濃縮されており、最後まで一気に読ませます。主人公は、過去を捨て、現在を捨て、未来の都市に到着しますが・・・彼はいったいどこに生きるべきなのでしょうか?
 ここでの「未来都市」には2つの意味があるようです。1つは、未来に向かって生きる都市。もう1つは、イデオロギーの完成形をもった都市。作中の軸は後者にありますが、個人的な共鳴は前者の方に感じました。また、あれっ、これは「マトリックス」?麻耶雄嵩の・・・?という展開があったりします。

 ――わたしは、もし一つの作品がただ一人の人にしか共感を与えないとしても、その一人が本当に感動するのなら、それも許されると思うんですの。

 そうした感動は、愛している場合にだけ起るのではないだろうか。僕はそう考え、それを口にすることを憚った。