埴谷雄高「神の白い顔」

 「夢とはこれまでに意識の隅で見たものの組み合わせ」といわれるが、これは「《未知》を見よう」という私の決意を挫くものであり、そのために葛藤していた。また私は《存在》のすがたを見ようとしており、存在そのものを背後から眺めたいと渇望していた。これを手助けする暗示がかつてあり、それは少年時代に海に突き落とされたときに船の底を見て、溺死者の存在を感じたときのことであった――。

闇のなかの黒い馬

闇のなかの黒い馬

 夢の中にこそホンモノの姿を求め、そこにリアルな《存在》を発見しようとするスタンスは、他の埴谷雄高作品でも見られます。ただ、本作では特に死の観念が充満しており、緊迫感のある文体が、論理展開すらもサスペンスフルなものにしています。すさまじい描写力に圧倒される作品です。