埴谷雄高「虚空」

 "Anywhere out of the world!" 地の果てに到着した私が発したその声は、虚空への呼びかけである。虚空への内なる切なげな喘ぎである。虚空には透明な風がはためいている。けれども地を這う習性を持つ私の喘ぎは、そこで自身へとひきもどされる――。数日前に、この乳鉢を伏せたように完璧な円形をした山を知った。妙帽山。そこで私は虚空で鳴るような響きを聞いた。

虚空

虚空

 自然と一体化することに成功した小説であり、迫力のラストシーンは頭を心を、体のなかを、風がびゅんびゅん吹き荒れることでしょう。長大な「死霊」が代表作なのは間違いありませんが、もう少し簡単に読める作品として、私はコレを薦めます。
 煩雑な社会から飛び上がったところにある無の場所、虚空へのアコガレ。その思いがさまざまな形をなして、想う場所へと羽ばたいていきます。見上げたところにあるのは、天空、蒼穹・・・透明感の高い言葉により読者を空にいざなった後で、一転、叩きつけられるリアリティの重み。その展開力。