織田作之助「六白金星」

 楢雄は生れつき頭が悪く、要領が悪く、秀才といわれる兄とは違って、母親の期待をことごとく裏切ってばかりであった。そんな楢雄も落第を機にとうとう家を出たが、気が気でならない母は楢雄の行為にことごとく口を出す・・・。嫌い合っているわけじゃないのに、なぜかすれ違ってしまう母子の物語。

織田作之助作品集〈2〉

織田作之助作品集〈2〉

 愛するあまりに盲目で「干渉」というラインを越えたことに気づかない母親と、母を心では愛しながらも頑固な気質からか子供だからか、行為をやんわりと受け止めてあげることが出来ずに反抗してしまう息子の、すれ違いの日々。つまり、現在も多くの家庭で見られる光景。
 この作品は冒頭から「楢雄は頭が悪い」と連呼されるために、そのイメージが始終つきまってしまいますが、これは「要領が悪い」ということに過ぎません。そんな人が、個性なるものを主張する人々の集団(=社会)の中で輝くためには、良心的な周囲の視線が不可欠です。しかし、作者は、輝けないのは周囲のせいでも自分の力のせいでもなく、「六白金星のせいである」と言いきってしまうのです。そこに作者の運命に反抗し、自立を目指していく強い生き方を感じました。

 「この年生れの人は、表面は気永のように見えて、その実至って短気にて些細なことにも腹立ち易く、何かと口小言多い故、交際上円満を欠くことがある。親兄弟との縁薄く、早くより他人の中にて苦労する者が多い。また<因循の質にてテキパキ物事の捗らぬ所があるが、生来忍耐力に富み、辛抱強く、一端かうと思ひ込んだことはどこまでもやり通し、大器晩成するものなり……」