織田作之助「髪」

 丸刈りが当然とされるた戦中のあの時代を、私は長髪で通しきったのである。権威を嫌うあまりルールを破りとおし、髪を守るために退学の道をさえ選んだのだった。つまりこの長髪には、ささやかながら私の青春の想出が秘められているのだ。男にも髪の歴史というものがないわけではない。

http://www.aozora.gr.jp/cards/000040/files/46301_26612.html

 大阪の街を描きまくって夭折した作家・織田作之助の、隠れた秀作。
 「自分」を貫いたために放浪し、苦労した青年時代の思い出を、ハートよりも髪の毛を中心にすえて、飄々としたテンポで描きます。世間一般の常識に反抗した自分の行為を、不器用だと反省する気はないが、それを威張るのも気恥ずかしい。だから作者は「全部、髪のためだったのさ」とうそぶきます。このへん、とてもイイですね。
 時流に乗るために必死な人々や、権威に乗っかる人々に対する苦々しさもこめられており、分かりやすく読みやすく、ユーモアにあふれて共感しやすく、誰にでもオススメ出来る好編です。



 この作は私の作風のある一面が良くも悪くも比較的はっきりと出ており、嫌いな作ではない。(織田作之助