北杜夫「少年と狼」

 森と山の麓の草原のあたりに、デヒタというへんちくりんな少年がすんでいました。いつも仲間はずれにされていたデヒタは、よし、山へ行ってみよう!と思いました。大変むつかしいことでしたが、デヒタはがんばりました。たどりついたちいさな沼で、デヒタは竜をみたのでした。そして竜のそばには黄金があったのでした。ところが家にかえってからデヒタがいったことを、父と母はまったく信じてくれませんでした。

マンボウあくびノオト (中公文庫)

マンボウあくびノオト (中公文庫)

 本当のことをいっても大人は信じてくれない――。太宰治お伽草紙」ばりに独自の解釈が施されるのは、イソップ物語の「狼少年」です。それとじっくり比べることにより、さまざまな面白さに気づくことと思います。
ここでの少年は決して嘘をついているわけではありません。ただそれが(大人にとっては)突拍子もないことなので、誰にも信じてもらえないだけなのです。そして話は狼と遭遇する、あの結末に向かいます。まるでそれは避けられない運命であるかのように・・・ただ、どういう方向に落ちるかは、読んでのお楽しみ。ラストのある一文に感じ入る部分がありました。