川端康成「片腕」
片腕を一晩お貸ししてもいいわ――。女の外された片腕を持った私は、もやの濃い夜の中を帰途についた。やさしくしたおかげで、腕は話をしてくれる。私は娘の腕をやわらかくなで、手を握った。円みのある肩、腕のつけ根。まげた肘の内側にできた光りのかげを、私は唇をあてて吸った。部屋の中で繰り広げられる、一人と「一本」との間での隠微な行為。
- 作者: 川端康成
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1965
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冒頭2行の脅威で掴んで、一気に話を持っていく力がすごい。芯の通った変態の持続によって、ストーリーになぜか不思議を感じなくなってしまいます。主人公の対象は「母体」から腕へと移り、腕から「母体」についての話を聞き、そもそもの望みは「母体」だったのか腕だったのか分からなくなり・・・。腕を構成する単語の使用が、様々なイメージの詰まった文章に耽美&ダークな感じを加えます。
「片腕を一晩お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。そして右腕を肩からはずすと、それを左手に持って私の膝においた。
- 作者: 川端康成,東雅夫
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2006/07
- メディア: 文庫
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