小山清「落穂拾い」

 小説家の僕は、いつも一人で過ごしている。ときどきは一日中言葉を話さないこともある。ああ、これはよくない。誰とでもいい、ふたこと、みことでもいいのだ。お天気の話をするだけでもいい。人恋しい気持に誘われる。――誰かに贈物をするような心で書けたらなあ。僕の交友の話でもしよう。

落穂拾ひ・聖アンデルセン (新潮文庫)

落穂拾ひ・聖アンデルセン (新潮文庫)

 100人のメルトモよりも、1人の親友の存在を喜ぶ人に向けた作品です。
 交友範囲が狭い人はひとりひとりのことを思い出す回数が増え、その結果として頑丈なラインが引かれるはずです。けれども、節々から読み取れる作者の不安は、それが一方向のみのものであるかもしれない―――という不安に由来しているのかもしれません。

 その人のためになにかの役に立つということを抜きにして、僕達がお互いに必要とし合う間柄になれたなら、どんなにいいことだろう。

 誰かに贈物をするような心で書けたらなあ。