小山清「落穂拾い」
小説家の僕は、いつも一人で過ごしている。ときどきは一日中言葉を話さないこともある。ああ、これはよくない。誰とでもいい、ふたこと、みことでもいいのだ。お天気の話をするだけでもいい。人恋しい気持に誘われる。――誰かに贈物をするような心で書けたらなあ。僕の交友の話でもしよう。
- 作者: 小山清
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1955/11
- メディア: 文庫
- クリック: 398回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
交友範囲が狭い人はひとりひとりのことを思い出す回数が増え、その結果として頑丈なラインが引かれるはずです。けれども、節々から読み取れる作者の不安は、それが一方向のみのものであるかもしれない―――という不安に由来しているのかもしれません。
その人のためになにかの役に立つということを抜きにして、僕達がお互いに必要とし合う間柄になれたなら、どんなにいいことだろう。
誰かに贈物をするような心で書けたらなあ。