石川淳「変化雑載」
教えられて出向いた寺のうす暗い窓口から、すっと差し出された闇タバコ。いや、タバコよりもその手、その爪、真っ赤なマニキュアが塗られたその艶の出たのが、窓口にながれて眼にしみた。飛び出した細い手が札をつかんで引っこんで、硝子もしまって、後には何も残らない。物音ひとつしやしない。――こいつ、ちょっといける。
- 作者: 石川淳
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1980/05
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 9回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
こいつ、ちょっといける。なにが。この女がか。この光景がか。いや、どうも、酒がなくてはなにもいけない。