西野辰吉「米系日人」

 米兵と関係を生じて結婚したが、彼が帰還してからは連絡もなく送金もなく・・・彼女は苦しい身上を語ったが、話のどこまでが真実なのかわからない。彼女たちのほとんどが年齢をかくしたり、住所をいつわったりするからだった。役所に勤める私の元には、連日のようにこうした女性たちがやってくる――。ドキュメンタリタッチの社会派作品。

米系日人 (1954年)

米系日人 (1954年)

 後先を考えずに行われたその場での口約束と偽善行為が、数多くの悲劇の子を生みました。特に占領と被占領との間で行われたものは、立場を利用したものが感じられて悪質に思えます。役所にいる主人公は、毎日のように連れ込まれる片親のいない、そして籍のない子供に囲まれて、そのことに憤りを感じるのでした。また、この作品は短いエピソードの積み重ねで描かれているのですが、その隅々にドキュメンタリーの手法がとられていて、作品の細部にリアリティを与えています。芥川賞候補になった、見逃せない作品です。