尾崎一雄「蜜蜂が降る」

 今日もまた200匹ほどの蜜蜂が、我が家の樹の繁みから降ってくる。どの蜂も身をまるめた格好で動く様子がない。私は蜜蜂の生態について、結構いろんなことを識っている。たとえば「蜜蜂がもつ特攻精神」のことや「老蜂を淘汰して行う新陳代謝」のことなどである。


 樹齢三百年という樹木に集う蜜蜂を中心にした自然界と、こちら側の人間界を境目なく繋げて小説に仕立てる手法は見事です。時間的制約を解き放った語り口は、必ず決まった時期に毎年行われる自然界の厳格な掟を前にしたときの、人間社会の歩みというものを印象付けているように思いました。