高見順「草のいのちを」

 貞子というその女は二十一だという。女優になりたいらしい・・・が、無理だろう。こういう女性のほとんどが脱落していったものだ。社会を知った大人としては、無謀さを阻止すべきかもしれない。けれども、むげに希望の芽を摘みとるのは、どんなものだろうか。草が伸びようとしているのだ。伸ばせるだけ伸ばしてやった方がいいのではないか。

 時代が変わっても人間の思い・願いは変わりません。変わるのは、その人間の周囲、受け入れる側の認識です。戦争が終わり、夢と現実との距離が近づいた時代が到来しました。主人公が話をする相手は(まるで10行1年というように)次々と変わり、ストーリーは段階的に盛り上がっていきます。「われは草なり 伸びんとす」で始まる明日を思う詩が、強く強く印象に残る作品であり、逆に言えば、そこに感激を持って到着するために書かれた小説です。

 伸びようとする芽は、兎に角伸ばしたがいいのではないか。嵐の後の若草の明るく逞しい成長力が心に来た。