源氏鶏太「たばこ娘」

 朝起きるのと同時に、私の煙草生活がはじまる。寝床で三本、顔を洗って二本。私は本を売り、洋服を売り、それをみんな煙にしてしまった。私は煙草のために死んだら本望である。今日も会社に向かう途中で煙草を買う。いつもツユから買うことにしているが、それは彼女が安く売ってくれるからに過ぎない――。煙草に人生をささげた男が、煙草売りの娘・ツユの積極性にあい、思わぬ気持ちを抱くにいたる。

たばこ娘 (1957年) (角川小説新書)

たばこ娘 (1957年) (角川小説新書)

 ユーモアとペーソスの入り混じった小説です。主人公のたばこ男は、たばこ娘・ツユの独断と突進ぶりに当惑しつつも、意外な感情の揺れを起こします。ただ、この男にとって女と煙草のどちらを取るかといったら、すでに決まっていることなので・・・。
 また、この作品は数章に別れているのですが、いずれも「たばこと私」とでもいうべき短文からスタートし、繰り返される日常という、決まった型も楽しめます。