宮沢賢治「グスコーブドリの伝記」

 グスコーブドリは、イーハトーブの大きな森のなかに生れました。ある年、森は飢饉におそわれて、大切な穀物も一つぶもできませんでした。お父さんとお母さんはいなくなり、妹のネリも連れていかれてしまいました。ブドリは泣きましたが、与えられた仕事をいっしょうけんめいこなしました。そして、たくさん勉強をして、たくさんの人と出会うのでした。

日本の童話名作選 昭和篇 (講談社文芸文庫)

日本の童話名作選 昭和篇 (講談社文芸文庫)

 自然災害である飢饉に潰されながらも懸命に働く少年の伝記物語は、科学の面白さや努力と勉強することの大切さを伝えてくれます。その根本にはブドリの性格である、善意と、年長者への尊敬と信頼、さらには自己犠牲の精神があるように思いました。
 ブドリは表層から深層へ進んでいくような形で成長していきますが、彼は彼の原点を決して失うことはありません。それはどの組織に入っても変わらず、どの人間と接しても変わらない部分であり、その結果として得ることが出来たのが、周囲からの信頼であったように思います。