井伏鱒二「大空の鷲」

 御坂峠の空を自由にとびまわり、下界を睥睨する鷲がいる。茶屋の人たちは、この鷲を御坂峠のクロと呼んでいる。あるときは大きな魚を、あるときは猿をくわえ、クロは諸所方々にある根城にもっていく――。横着な監督に率いられた映画の撮影隊がきた数日後、東京の小説家はノートをとった。追憶から、そして空想から。

山椒魚 (新潮文庫)

山椒魚 (新潮文庫)

 「出所」や所有権にこだわる人間の小さなプライドと、広い大空で自由に生活するクロの力強さが、目線の対照をもって貫かれる作品です。自然や動物に対する優しく暖かい目線と、それを意のままにしようとする人間への戒めを感じます。
 井伏鱒二らしい、ひょうひょうとしたタッチで描かれていますが、なかなか複雑に構成されていて面白いです。特にラストシーンの情景はとても楽しく、映像的。

 「ほうれえ、クロが見えるじゃあ」