林芙美子「風琴と魚の町」

 「ここはええところじゃ、ここは何ちうてな?」「尾の道よ」。風琴の調べにあわせて商品を売る行商人一家。彼らが偶然に降りた町で得た、しあわせの日々。苦しい生活の果てにようやく得られた、安住の地・・・。ところが降り続いて止まない雨が、彼らのしあわせを全て流してしまおうとするのだった。

風琴と魚の町/清貧の書 (新潮文庫 は 1-4)

風琴と魚の町/清貧の書 (新潮文庫 は 1-4)

 自身の体験をもとにした林芙美子の情緒あふれる作品。
 娘に貧乏をさせていることを悲しむ父母の思いと、父の仕事ぶりを喜ぶ母娘の思いが交差し、暖かいファミリー像が構築されています。
 その一方で、この子供には何ともいえない淋しさを感じます。小学生の目線で書かれたはずなのに、その描写はあまりにドライ。これは小学生にして、すでに「貧しさ」に慣れきった人間しか持ち得ないものだと思います。喜びの後には必ず悲しみが訪れるという経験が、体に染み付いている人間のもの。むやみに喜んではいけないよ、でも、喜びたいよね、子供なんだから・・・。