武田泰淳「愛と誓い」

 「誓います」との言葉に縛られて生きる男、矢走僕夫の懊悩の様子。誓いを守ることに必死な彼を殺すために、運命の矢が残酷に襲ってくる。キリスト教は迫害され、真の愛について苦悩する。誓いが必要とされる愛は、まだ未熟な愛ではないだろうか。誓いの札びらを切って、愛を買ったことにはならないだろうか・・・。

愛と誓ひ―他四篇 (1957年) (角川文庫)

愛と誓ひ―他四篇 (1957年) (角川文庫)

 武田泰淳版「走れメロス」は、そこまでするか、という展開を見せていきます。
 初日に「永遠の愛を誓った」はずなのに離婚率は高くなる一方ですが、それは実際には誓っていないため。律儀な主人公は「誓い」をどうしても破ることが出来ず、猛烈に苦悩します。それを知ってか知らずか、周囲の人々は彼を惑わし、誓いを破らせようとするのですが・・・次第に激しさを増していく、神話のようなストーリー。人間の弱さを描きながら、本当の「純粋」とは肉体と精神のどちらにあるのか、という哲学の問題にも立ち入ります。