石川淳「虹」
公私共に充実した社長・大給小助のもとに、突然かかってきた一本の電話。それはあらゆる嫌疑を不思議と逃れ、時代の寵児となった悪魔・朽木久太からのものだった。奴は何を考えているのか、何を起こそうとしているのか。小助は得意の弓を持った。この来訪者はこれをもって迎えるほかしかあるまい・・・。たった一晩の出来事の幕が、こうして切って落とされた。
現代日本の文学 (18) 曾呂利噺、白猫・明月珠・焼跡のイエス・鷹・虹・八幡縁起・修羅・諸国畸人伝
- 作者: 石川淳,足立巻一
- 出版社/メーカー: 学研
- 発売日: 1978
- メディア: 単行本
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現実世界で有用かつ権威を持った存在は、すべて“朽木ワールド”に入った途端に「意味」を失い、滑稽で無意味な登場人物AやBやCになり下がり、個はただの群れになります。あらゆる外面、レッテルを溶かす朽木の武器は、饒舌な「観念」です。これは観念が実在を圧倒しつづける小説ですが、紙に書かれたものである以上、ココに実在しています。ラストの意外な展開は、この矛盾を解決するためのものだと思いました。
そういっても、ひとびとはなにをあおぎ見たのか。ひとびとがそれを見たとおもったところに、久太がいたかどうか判然としなかった。