石川淳「鷹」

 たばこ会社を解雇された国助が呆けていると、Kと名のる男が近づいてきた。「仕事が無いのか?あしたの朝、ここへ行ってみたまえ」。与えられたのは、運河のほとりの家の地図。宿がもらえ、仕事があたえられ、それは煙草を運搬するという単純な仕事であった。だが、この煙草、何かが違う。その証拠に、小犬の態度に変化が生じた――。偶然の遭遇は、時空間を賭ける思わぬ方向に展開してゆく。

石川淳 (ちくま日本文学全集 11)

石川淳 (ちくま日本文学全集 11)

 石川淳の魂が発揮された名作です。自分たちの手で明日を作り、歴史という過去の壁をぶち破る。その運動を行うことが出来るのは、無限のエネルギーを持つ人間のみ――。この精神力を持つようになるためには、人間の可能性を信じきることですが、これはとても大変なことです。
 ヒッチコックばりの巻き込まれ型ミステリーは、迫力たっぷりの描写をともなって加速します。妙な現実感の上に君臨する少女のメルヘンが、強烈なアクセントとして残ります。