坂口安吾「風博士」

 諸君は偉大なる風博士を御存知であろうか?――警察の計算のごとく、博士は自殺を装ったのではない。否否否。偉大なる風博士は明らかに自殺したのである。風博士の遺書を読まれることで、諸君らは深い感動を催し、憎むべき蛸博士に対して劇しい怒りを覚えられるであろう!

坂口安吾 (ちくま日本文学全集)

坂口安吾 (ちくま日本文学全集)

 言葉遊びでまとめた小説。爆笑が得られるわけではありませんが、作者の各エッセイを読むと「わけがわからない」という感じをそのまま狙ったものだとうかがえます。受け取りたいように受け取ればよく、各文に意味を与えるのも、何もかもが読者の気分次第。

 これを読んで怒ろうったって怒れる筈もありますまいし、笑うには少々馬鹿馬鹿し過ぎて、さて何としたものかと首をかしげさせられながら、だんだん読んでいくと重たい笑顔に襲われます。(略)作者の名は坂口安吾です。私にははじめての、これ以外には未知のの人です――(牧野信一

 諸君は偉大なる風博士を御存知であろうか?ない。嗚呼。