坂口安吾「風と光と二十の私と」

 人の命令に従えず、幼稚園の時からサボることを覚えた私は、二十才のとき小学校の教員をすることになった。70人クラスのうち20人は、自分の名前以外は書くことが出来ない。だが、本当に可愛い子供は悪い子供の中にいるものだ――。不良の心を知る新米教師は、子供たちの「頭」ではなく「心」を育てようとする。

 子供に教えるのは、規制や規律?自由や想像力?坂口安吾先生は、子供に自分の才能について気づかせて、それを精一杯伸ばしてやろうとします。そんな熱心な姿の影には、横並びな日本社会から外れて、先が見えない道を歩きながら、孤独に生きる寂しさも垣間見えることでしょう。子供に言い聞かせることで、自らの正しさを再確認しようとする姿です。
 安吾の先生ぶりはとても板についていますが、それは人の心をつかむ術や、素直な心に通じることに長けていたためか。この教師時代に得た真理のいくつかは、その後の作家生活にも生かされたはずです。
 読みやすく、理解しやすい。10代に読んで欲しい、秀作。

 不幸とは愛されないということだ。尊重されないということだ。

 「これからは人をそそのかして物を盗ませたりしちゃいけないよ。どうしても悪いことをせずにいられなかったら、人を使わずに、自分一人でやれ。善いことも悪いことも自分一人でやるんだ」。