嘉村磯多「崖の下」

 駆け落ちの男女が見つけたのは、崖の下にある家だった。家の南側に絶壁があり、崖崩れが起きようものならひとたまりもない。近所には崖崩れで圧死した人も出たというが、彼らの最後の場所としては適当だろう。寝転んでは天井をにらむ日々。明日に、前途に、望むべき何れ程の光明と安住とがあるだろう?

業苦・崖の下 (講談社文芸文庫)

業苦・崖の下 (講談社文芸文庫)

  夢を見た駆け落ちカップルを襲うシビアな現実を、自己批判を大いにこめて書いたストーリーです。これは、暗い、暗い、生き様です。ライトが消えた道を歩かざるを得ない2人、そのお先真っ暗さ加減は恐ろしいほど。
 崖下にある家への引っ越しは、これはもう、殺すなら殺せ!と天に対して唾しているようなもので、決意に満ちた顔面には、固まってしまった冷や汗を見ます。