牧野信一「山を降る一隊」

 山奥の製材所で木材の長さを計り、それを大きな声で読み上げる。私の仕事はメートル係りである。陽の下で行う健康的な仕事は晴れやかな毎日を与えてくれた。仕事を覚えて日々上手になっていく自分を知ることは、楽しかった。妻もそんな私を晴れがましく思っていた。彼らの飲み会に招かれると私は上座に座らされた。二次会に行こうとしたある晩、王と后のように馬に乗せられた私と妻を中心に、仲間たちはトキの声を上げながら行進した。どこまでもどこまでも――。

牧野信一全集〈第3巻〉大正15年9月~昭和5年5月

牧野信一全集〈第3巻〉大正15年9月~昭和5年5月

 さわやかに終始した、牧野信一にしては異色の話です。ページ数は少ないのですが、伸びやかな声、自分たちを主役とした神輿・・・とにかく、気分のいい光景が続きます。どうだ、見たか・・・ただ、それは嘘。ラストの一言が、ある「形」を保たさせているように思いました。