武田麟太郎「銀座八丁」

 勤め先のマダム・あき子は昨夜泥酔のあげくに発病したらしく、すっかり元気をなくした様子。店の内情を知るバーテン藤山は、表立ってはマダムに媚びながら、いつも身の振り方を考えていた。その場合、彼女及び店の資金源である内田、このお人よしを利用しない手はない・・・。銀座5丁目にあるバー「ロオトンヌ」。繰り広げられるのは、金と欲にまつわる話。

 強引な命令が下されたとき、拒否しきれない自分がいます。それは優しさから来る姿ですが、強引な人間の立場からは、単なる弱さ、権力に服従する姿と写ります。本書ではそれを男と女の違いで分けており、命令口調の男に従ってしまう、保守的な女のメロドラマがまぶされています。
 はじめ、バーテンの藤山は利用される側、マダムのあき子は利用する側でしたが、この街において上下関係を決定するのは金でしかなく、チャンスを掴むことが出来るかどうかにより、立場も変化していくのでした。その中で登場する「アイツ」という人物だけは、悠々と銀座の海を泳ぎ続けます。それはいかにも憎たらしいものですが、ここまで貫かれると何となく痛快です。バッドボーイ、極まれり。