嘉村磯多

嘉村磯多「七月二十二日の夜」

師の三回忌。挨拶に伺った私は、未亡人と顔面に大ヤケドを負った遺子と会う。「いっそ死んでくれたのなら・・・」と声を絞り、苦悩を浮かべた表情を未亡人は両手で覆い隠した。治療費もない未亡人を前に、私は援助をしかかるが、私にも似た境遇の子供がおり…

嘉村磯多「崖の下」

駆け落ちの男女が見つけたのは、崖の下にある家だった。家の南側に絶壁があり、崖崩れが起きようものならひとたまりもない。近所には崖崩れで圧死した人も出たというが、彼らの最後の場所としては適当だろう。寝転んでは天井をにらむ日々。明日に、前途に、…