牧野信一「鱗雲」
昔、この町では百足凧の大きさや豪華さを競った凧揚げ大会が繰り広げられたものであり、子供の頃の私も大いに魅了されたことを覚えている。そうだ、子供たちにあの光景を見せてあげるために、自分の手で百足凧を作ってみよう。だが、作業をはじめようとして、私はふと気がついたのである。頼りになるのは自分の薄れゆく記憶だけで、どうしても細部を思い出すことが出来ないことに。
- 作者: 牧野信一
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2002/05
- メディア: 単行本
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世の中には「細部などたいしたことはなく、全体的なイメージが大事だ」という人がいれば、反対に「全体の良さを決定するためにも、大事なのは細部のきめ細かさだ」という人もいます。ここで描かれるのは、完全無欠を求める人間が身もだえする阿呆さ加減。