牧野信一「鬼の門」

 村人のほとんどは村名物の暴風に備えて、今まさに懸命に養生しているのだ。のんきに本を読んでいる暇はないのだが、私は本の中に生きる冒険者である。破産はしていたが「華やかなる武士道」に生きているのだ。・・・屋根の上の敵襲に対し、先祖が着けていた鎧を着込み剣を取り上げ屋根を睨み、「現れたな!」と、その格好で屋根の上に登り・・・。

ゼーロン・淡雪 他十一篇 (岩波文庫)

ゼーロン・淡雪 他十一篇 (岩波文庫)

 存在そのものが吹き飛ばされそうな主人公が、鎧をまとって、重石で自分を抑え・・・といった深度よりも、陽気なコメディとして楽しんでしまいました。主人公の臆病さ加減やセリフ(「厭だよぅ・・・」etc)に笑えます。そして、闇夜の中に風が吹き荒れ、人が駆け、狂う――その雰囲気のまま、怒涛の展開力でまとめきってしまうのでした。ラストの〆は、イッセー尾形の一人舞台のよう。