牧野信一「鬼涙村」
私と水流舟二郎君は、毎年恒例の鬼涙村祭に用いられるお面作りの仕事仲間であった。完成したお面を届けに久しぶりに外出すると、村には祭りが近づいている景色が見受けられた。だが、私にとっての祭りは決して楽しみばかりではない。祭りの背後では秘密結社によるリンチが行われる慣わしがあり、今年のターゲットは、噂によれば他ならぬ私かもしれないのだ。
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私は、囲炉裏のまわりに、偶然にも容疑者ばかりが集ったのを、改めて見廻した。そして、人の反感や憎念をあがなう人物というものは、その行為や人格を別にして、外形を一瞥したのみで、直ちに堪らぬ厭味を覚えさせられるものだとおもった。人の通有性などというものは平凡で、そして的確だ。私にしろ、もしもすべての村人を一列にならべて、その中から全く理由もなく「憎むべき人物」を指摘せよと命ぜられたならば、やはりこれらの者共と、そして万豊とJを選んだであろうと思われた。
- 作者: 牧野信一
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- 太宰治「ダス・ゲマイネ」