太宰治「トカトントン」

 日本の敗戦を知ったその日、絶望に「死のう」と決意したとき以来のことです。どこかからトカトントンという音が聞こえてきたとたんに、私は感情を失ってしまうのです。トカトントン、仕事中にもトカトントン、デート中にもトカトントン。とたんにこんなこと無意味なんじゃないかと、面倒になってしまうのです。いったい、どうして何でしょう。教えて下さい。この音は、なんでしょう。

 やる気をなくす、トカトントン。虚無の引き金、トカトントン。信頼していたものに裏切られ、そのことを引きずる人間に与えられる響きです。
 「やってもムダだよ、だから、やらなくても同じだよ」あるいは「実際にやれば出来るけど忙しくてね、勉強は続けているから自信はあるけど」。そういった(熱心な活動が無駄に終わった経験から?)活動自体に意味を失ってしまった人間の、苦悩についての公開質問状です。最後に書かれるのは太宰治なりの解答ですが、私なら「とっくに到達していた」ことを意識させる方向に話を持っていく、と思います。