平林たい子「施療室にて」
・・・どのくらい眠っただろうか、腹部の激しい痛みが私を襲ってきた。野獣のような自分のうなり声を冷酷に聞く。陣痛だ。出産後、私は監獄に入れられる。テロの失敗が原因である。午前5時、私は猿のように赤い子を産んだ。だが金持ちが優遇されるこの病院で、処置が面倒な貧乏人は薬すら与えられない。赤ん坊のおしめを替えてくれる人はおらず、ミルクすらもらえない・・・。
- 作者: 平林たい子,中沢けい
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1996/05/10
- メディア: 文庫
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医療制度に関しても市場主義を貫くアメリカとは異なり、弱者に対するネットが広げられる日本において、あらゆる生命は平等であるはずです。しかし、金持ちの患者には必ず個室が割り当てられるように、現代の病院にもそうした差別は存在しています。そうした点を訴える、これこそ弱者の側の視点です。
――一壜の薬品の値段よりも軽蔑せられた女患者の生命――
私は、子供に濁った乳をのませる決心が、ひょうひょうと風のように淋しく心に舞い込んで来たのを感じた。