平林たい子「施療室にて」

 ・・・どのくらい眠っただろうか、腹部の激しい痛みが私を襲ってきた。野獣のような自分のうなり声を冷酷に聞く。陣痛だ。出産後、私は監獄に入れられる。テロの失敗が原因である。午前5時、私は猿のように赤い子を産んだ。だが金持ちが優遇されるこの病院で、処置が面倒な貧乏人は薬すら与えられない。赤ん坊のおしめを替えてくれる人はおらず、ミルクすらもらえない・・・。

 進歩する医学は病気を解明するでしょう。けれども、高価な医療費が払えないために手術すら出来ない患者が数多く存在する現実について、医学は何も出来ません。
 医療制度に関しても市場主義を貫くアメリカとは異なり、弱者に対するネットが広げられる日本において、あらゆる生命は平等であるはずです。しかし、金持ちの患者には必ず個室が割り当てられるように、現代の病院にもそうした差別は存在しています。そうした点を訴える、これこそ弱者の側の視点です。

 ――一壜の薬品の値段よりも軽蔑せられた女患者の生命――

 私は、子供に濁った乳をのませる決心が、ひょうひょうと風のように淋しく心に舞い込んで来たのを感じた。